2014/10/01

サブスリーの壁

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フルマラソンの大会に出ると、スタートラインに並ぶ陸連登録ランナーは、体つきや足の筋肉が一般人と違っており、その鋭い肉体で2時間台のタイムを難なく出してしまうのですが、ヨレヨレのシャツに使い込んだシューズの、ひょろっとした体格の一見普通のおじさんでも、サブ3で走ってしまう場合が結構多いです。
しかし、サブ3を達成している市民ランナーは少なく、これを目標にトレーニングに励んでいるランナーさんが多いのですが、サブ4やサブ3.5は割りとスムーズにクリアできたものの、3時間10分~20分あたりから一向に伸びなくなり、戦歴と走歴だけが増えてしまう状態になっている方が非常に多いです。
このレベルのランナーさんのトレーニング内容をチェックすると、スピード重視タイプと、スタミナ重視タイプの2つに分かれるようです。

スピード重視のランナーさんの場合、普段のトレーニングは5~10km程度の距離で、メニューはペース走とジョグがメイン。トレーニングで走るペースはかなり速いのですが、ロング走などのスタミナ強化のメニューはほとんど行わないため、月のトレーニング距離は少ない。これはスピードが得意で持久力トレーニングが苦手な30代以下の方に多いようです。

スタミナ重視のランナーさんは、ジョグとロング走、LSDがメイン。LT走やインターバル走など、スピードと心肺機能強化のメニューが非常に少ない。このメニューだとトレーニング距離は確実に伸びるので、月間走行距離を意識して頑張っている方が多く、スピードトレーニングが苦手な40歳代以上のランナーさんに多いようです。

特に月の距離を目標にすることで、レベルアップに歯止めをかけている場合が多いようで、距離が多いというのは、子供に例えれば、成績やテストの点を棚に上げ、「今日は2時間も勉強をしたよ」「今日は3時間だよ!」と母親に勉強時間を報告をしているようなものです。
長い時間机に向かい、解ける問題を何度も解いて自己満足をしていても、勉強時間は増えますが能力は上がりません。30分程度の時間で、解けなかった問題を解けるようにしたり、知らなかった単語をいくつか暗記したりする方が短時間で学力は上がります。
それと同じで、難なくこなせるランニングを毎週長時間繰り返しても、目標のレースペースで走るマラソンのための走力が上がるわけはなく、月間走行距離が増えたことで自己満足にひたれるだけで、貴重な休日の時間はいとも簡単に消えてなくなります。これでは、マラソンのための練習ではなく、練習のための練習となってしまいます。
このことになかなか気づかないランナーさんが多いのが不思議。量より質の方が重要なのは、トレーニングでも勉強でも仕事でも同じなのに。

ダラダラと走って距離を踏んでもある程度のレベルまでなら上がりはしますが、それはマラソンの完走かサブ4が目標のランナーさんあたりまで。初心者レベルをクリアしたランナーさんのトレーニングは、合計距離よりもどれだけ負荷をかけたかが重要で、距離を気にしたり目標にしたりしてしまうと、トレーニングメニューがマラソンペースとは程遠い、低速で長い距離のものに限定されてしまいます。

サブ4をクリアするには、走ることを習慣化するためのジョグと、長い時間運動を続ける能力を養うLSDを行えば達成の可能性が高まるし、サブ3.5をクリアするには、ゆっくり走っていたLSDを、ジョグペースや、それよりも速いペースで走れるようにすることと、レースペースよりも速く走るペース走を行い、心肺機能と脚力の強化をすればいいのですが、ここまでのレベルは速度よりも持久力を重視すればよく、怠けずにコツコツとトレーニングを続ければ、達成しやすいレベルです。(女子の場合は15分程度のハンディが必要。女子で3時間45分を切れれば、男子のサブ3.5と同レベルくらい)
ところがサブ3が目標になると、スタミナとスピードの双方を均等に強化し、2つの能力を結び合わせる必要があります。また2時間台に入れば、インターバル走などのスピード強化は絶対外せないメニューになるとのことを、エリートランナーさんから教えてもらいました。

サブ3に向けたトレーニングで、意外とネックになっているのがサブ3の平均ペース。
サブ3はキロ4分15秒で走ればいいのですが、これは最低ラインであって、それよりも速く走れる余力は絶対必要。マラソンを走っている間に好調、不調の波があるし、天気や気温、湿度での影響や、コースの起伏での負荷、スタート位置のハンディ、ランナーの混雑や追い抜き、給水でのロス、後半の疲労によるペースダウンがあるため、それを取り返すべく、一時的に目標ペースよりもペースアップする必要があります。単に4分15秒ペースで走れるようになっても、それだけでは完全に走力不足なんですね。
小出監督の本には、サブ3が目標の場合、20~30kmをキロ4分~4分5秒で走れなければならないとのこと。
およそハーフの2.1~2.2倍(持久系数)がフルのタイムと言われているので、フルが2時間59分51秒で走るとすると、係数を2.18倍として計算した場合、ハーフは1時間22分30秒で走れることになります。ハーフの1時間22分30秒はおよそキロ3分55秒ペース。
サブ3を達成しようと思うと、ハーフではこのレベルの速さで走れる走力が必要となるわけで、小出監督の目標が決して厳しいものではなく、妥当ということがわかります。
ちなみに、ハーフやフルのタイムの換算は、こちらのページが便利です。

ニューヨークシティマラソン アネックス タイム換算表


この高速ペースで走れる脚力と心肺機能を高めようとするには、ロング走重視で間に合うわけはなく、キロ4分を切るペースで走るLT走や、ラストを全力まで追い込むビルドアップ走、速さと回復力を高めるインターバル走など、脚力と心肺機能を徹底的に高めるトレーニングが必要になってきます。

年齢的に、スピードトレーニングが苦手な40代以降のランナーさんで、走歴が長いのにタイムが伸び悩んでいる方は、目標のレースペースよりも速く走る追い込み系のスピード強化メニューが確実に少ないのですよね。
スピード強化とスタミナ強化のバランスがいいトレーニングを行えば上達は早く、月300km程度で3年トレーニングを積めばサブ3は達成できるという意見は、月平均330kmで2年半かけてクリアできた私も実感しています。
私の場合は、ロング走だけでなく、LT走やタイムトライアルなどの、かなり苦しいトレーニングを積み重ねたことが、達成できた要因と思います。当時は、インターバル走はほとんど行っていなかったのですが、サブ3が達成できた今は、このメニューを取り入れています。
そのおかげで、足の筋肉の形が変化し、確実に走力アップができています。

今まで、マラソンペースよりもはるかに速いスピードで走る能力は、中距離走者に必要なものであって、ハーフやフルマラソンのタイムが目標の場合は不要と感じ、このメニューを敬遠していたのですが、マラソンペースよりも速く走れる脚力と心肺機能が備わると、目標のマラソンペースが楽チンに走れるようになります。4分15秒のマラソンペースで15kmくらい走る程度なら難なく走られ、心拍数も低めで済むようになります。もちろん、スピードメニューだけでは速いペースで走れるようにはなるものの、長い距離を維持することはできないので、その部分はロング走で補います。
スピード強化のメニューと、持久力メニューの走力をそれぞれ高め、それをバランス良くミックスできるようになると、マラソンタイムは自ずと縮むようです。ロングのハイペース走のように、速さとスタミナの両方を1度にトレーニングすると、負荷が高すぎて途中でペースダウンとなりトレーニングはそこでストップしてしまいますが、内容を分割すれば、高負荷な内容でも鍛えやすいです。

PB更新がなかなかできない、もしくは、PB更新をしてもわずかのタイムという場合は、自分のトレーニング内容を振り返って見て、この内容が本当に正しいのだろうか?弱い部分はないだろうか?と疑問点を探してそれを修正するといいように思います。
そのスキルを養うには、多くのマラソン関係の本を読んだり、自分よりもレベルの高いランナーさんのメニューを参考にしたり、マラソン雑誌のトレーニング方法をチェックしたりするのが手っ取り早いです。
そして、なるほどと納得するだけではなく、ものは試しにやってみることが大切。試してみて、走力アップに繋がったのであれば、定期的にこなすようにメニューに組み、自分に合わない、または、走力アップにつながらない、プラスよりもマイナス面が大きいと思えば、サッサとやめる。私が試してやめたものは、極端に遅いLSDと、マイナス効果の方が大きい裸足ラン、そして月間走行距離を目標にすること。

また、身近なランナーさんのトレーニング内容をチェックして、どこがまずいのかを見つけ出すのも効果的。そのランナーさんのトレーニングやレースでの問題点を見つけ出すことができるようになれば、客観的に物事を見つめられるようになるので、自分のトレーニングやレースでのダメ出しがしやすくなります。

市民ランナーはトレーニング時間が限られているし、仕事や私生活で、肉体面だけでなく精神的な面でも疲労困憊になる場合が多いので、ランニングを中心に過ごすことができる実業団のエリートランナーよりも、トレーニングの質を高める必要があります。
ストレス発散目的のランニングもしっかり楽しみつつ、走力アップのトレーニングは無駄をなくして効率を高め、そして、そのトレーニングが取り組みやすい環境に整えていく(家族に理解をしてもらう、付き合いを必要最低限にする、残業は避ける、本や雑誌から学ぶ、食事や睡眠など健康を意識する、シューズや完走証、賞状、写真などを部屋に置いてモチベーションを高める、趣味を多く持たない)ことなどがポイントですね。

ランナーズジョークで、
サブスリーは日常生活で達成可能。
2時間50分切りは、達成する代わりに何かを失うことになる。
というものを見つけたのですが、言い得て妙。
マラソンを趣味に持つことで、仕事や私生活で悪影響が出たり、家族サービスが滞ったり、頑張りすぎて身体を壊したりするようではダメで、失っても構わないものを失うようにするといいですね。
最も失うのはトレーンングによる時間ですが、時間を確保するには、頻度の多い飲み会や、効率の悪い残業、割が合わない休日出勤、ネットやテレビの時間、他愛もない井戸端会議や長電話、ウィンドウショッピングなどを減らす。失ってもいいものばかりです。
残業や休日出勤をしないとなれば手当も賞与も減りますが、無駄遣いをなくし節約すればいいことで、結果的に失うものは収入ではなく無駄遣いの方となります。
お金の使い方に関しては、こちらのページが非常に参考になりました。

本当に賢いお金の使い方は「毎日長時間使うもの」にお金をかけること | ライフハッカー[日本版]

自分の貴重な時間をどう過ごすか。同じルーティンを繰り返し、ぼんやり過ごすことを思えば、マラソンで目標を設定して、こつこつと取り組み、満足な結果を出して大いに喜ぶ生き方の方が、何かしら失うものがあったとしても、それを取り返すほどの充実感が得られると思います。そして、ランニングの場合は、自ずと健康もついてきます。

頑張れば手が届くかもしれないレベルの目標というのは、学生時代や資格を取る20代の頃は多かったのですが、歳を取ると以外と少ないのですよね。こういった目標があると、それに夢中になり、張り合いや生き甲斐を感じることができます。
資格試験などでは、合格できるとすごくうれしくて、その勢いで別の資格に手を出す場合が多いのですが、マラソンなら更に上のタイムを目指せばいいので、方向転換することなく、今のまま頑張り続ければいいだけというのも利点の一つ。
歳を取るほどステップアップどころか、現状維持すら難しくなるのですが、関門が難しくなればなるほど、達成した時の喜びは倍増します。

そんなわけで、サブ3.5やサブ3を目指している方、PB更新を狙っている方、更に上を目指している方、大きな喜びと生き甲斐を目指して頑張りましょー。
また、壁が超えられず難儀されている方は、その壁の原因は自分が作っているということに気付くことが大切。がむしゃらに頑張ったり、目的がずれてしまったり、偏ったトレーニングに終始することなく、無駄なく要領よくトレーニングができるようになると、案外楽にクリアできるかもしれません。
私もしっかり反省しつつ、PB更新を目指して頑張ります!